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『AI×ブロックチェーン』Web3時代の4つの新たなビジネスモデルと注目プロジェクトの分析

『AI×ブロックチェーン』Web3時代の4つの新たなビジネスモデルと注目プロジェクトの分析
 Web3分野に携わる者として、ブロックチェーン技術が分散化、データ主権、信用メカニズムをどのように再定義してきたかを目の当たりにしてきました。そして現在、人工知能(AI)とブロックチェーンの融合が、次なる技術革新として注目されています。この2つの技術は本質的に異なるものの、その組み合わせによって 全く新しいビジネスモデルが誕生し、Web3エコシステムの更なる発展を促進する可能性を秘めています。本稿では、AIとブロックチェーンの関係とAIが抱える課題、両者の融合がもたらす4つの新たなビジネスモデルについて考察を行います。

1. AIとブロックチェーンの関係:集権と分散の交錯

 AIとブロックチェーンを語る際にまず注目すべきは、その 根本的に異なるアーキテクチャ です。AIは高度に集中化されたデータと計算リソースに依存 しており、主に少数のテクノロジー企業によって支配されています。膨大なデータを収集・分析することで、これらの企業は強力なAIモデルを構築し、正確なビジネス判断を可能にしています。例えば、GoogleやMetaはAI技術を活用して広告配信を最適化し、ユーザー体験を向上させると同時に、ユーザーの意思決定に影響を与えることさえあります。

 一方で、ブロックチェーンはその対極にある分散型技術 です。分散型台帳とコンセンサスメカニズムを通じて、各参加者により大きな自律性を与え、特にデータ主権やプライバシー保護の分野で価値を発揮 します。Web3の核心理念は 「分散化」 にあり、ユーザーはもはやプラットフォームの「製品」ではなく、エコシステムの参加者であり受益者 となります。では、AIとブロックチェーンの融合は何を意味するのでしょうか?


 その答えは 「補完と協働」 です。

  • AIはブロックチェーンの分散型アーキテクチャを活用することで、データプライバシーを保護できる。
  • ブロックチェーンはAIを取り入れることで、システムの効率性と知能性を向上させることが可能。

 この融合は、既存のテクノロジー独占を打破するだけでなく、Web3エコシステムに新たな活力を注ぎ込むでしょう。

2. AIが抱える課題と挑戦:技術を超えた視点からの考察

 AIの可能性を受け入れる前に、以下のような 技術的・倫理的課題に向き合う必要があります。

 AIの核心的な競争力はデータです。ユーザー行動の分析を通じて、AIはモデルを継続的に最適化し、サービスの精度を高めています。しかし、この依存構造は重大なプライバシー問題を引き起こします。

 現状、多くのユーザーデータは集中管理型のサーバーに保存され、テクノロジー企業によって商業利用されています。これにより、

  • 大企業はユーザーデータを掌握し、市場での発言権を強める。
  • 一般ユーザーは自身のデータに対するコントロールを失う。

 といった中央集権的な構造が生まれています。

 AI生成コンテンツ(ディープフェイクなど) は、フェイク情報を新たな次元に引き上げました。AIを利用することで、

  • 悪意ある主体がリアルな偽動画、音声、テキストを生成可能。
  • 世論をミスリードし、政治的操作や商業詐欺に利用されるリスク。

 が高まっています。こうしたフェイク情報の氾濫 は、社会の信用メカニズムに深刻な影響を及ぼします。

AIモデルの訓練データには偏り(バイアス)が内在 しています。もし偏ったデータに基づいて学習したAIが意思決定を行うと、

  • 差別的・不公平な判断を下す可能性がある。
  • 意図しない形で社会的格差を助長するリスクがある。

 更に、AIの意思決定プロセスはしばしば 「ブラックボックス」 として扱われ、一般ユーザーには理解・追跡が困難です。この透明性の欠如 は、AIの信頼性に対する懸念を一層高めています。

 AIモデルの訓練に 膨大な計算リソースが必要であり、その結果、計算能力の高度な集中化 が進んでいます。現在、大規模なデータセンターやGPUクラスターを保有するのは、一部のテクノロジー大手企業に限られている 状況です。このリソースの集中化により、AIの研究および応用の発展が、こうした企業の独占的なインフラに依存せざるを得ない構造となっています。

3. 四つの新しいビジネスモデルと注目プロジェクトの分析

 AIとブロックチェーンの融合により、新たなビジネスモデルが誕生し、Web3エコシステムの更なる拡大と進化が期待されます。本章では、データ、プライバシー、計算リソース、コンテンツといった4つの分野における新たなビジネスモデルを紹介します。

 AIの発展に伴い、ユーザーデータへの依存が深まる中で、プライバシー保護は重要な課題となっています。ブロックチェーンのゼロ知識証明(Zero-Knowledge Proof, ZK Proof)技術は、AIに対して分散型プライバシー保護ソリューションを提供する手段として注目されています。このモデルでは、ユーザーはAIサービスを利用する際に、自身のデータを開示することなく、ZK Proof技術を通じてAIの分析や提案を受けることが可能です。特に、医療や金融など、プライバシーに対して敏感な分野に適しており、ユーザーにデータの自主管理権を与えることでプライバシー保護することができます。

https://build.vana.org/dlp/setup

 Vanaは、AI時代におけるユーザーデータのトークン化と流動性向上を目指す、分散型データ流動性ネットワークです。

 このプロジェクトは、データ流動性プール(Data Liquidity Pool, DLP)と貢献証明機構(Proof of Contribution, POC)を活用することで、以下の仕組みを提供します。

  • ユーザーは安全に個人データを共有し、そのデータを活用して訓練されたAIモデルを共同所有できる。
  • DLPにデータを提供することで、ユーザーはトークン報酬を獲得可能。
  • このトークンは、ユーザーの貢献を示すだけでなく、データプールのガバナンス権も付与。

 Vanaのアプローチは、個人データの利用価値を最大化しつつ、プライバシーを確保する新たなデータエコシステムの構築を目指している点で、Web3領域の中でも特に革新的なプロジェクトと言えるでしょう。

 DLP(データ流動性プール)は Vanaネットワークの基本単位であり、特定のデータユースケースに対応する「データDAO」 として機能します。ユーザーは、

  • 自身でDLPを作成する(ただし、非技術者には難易度が高い)。
  • 既存の「データDAO」にデータを提供し、そのDLP固有のトークン報酬を獲得する。

 のいずれかの方法でDLPに参加できます。例えば、RedditデータDAO(r/datadao)の固有トークンは RDAT です。これらのトークンは、データプールへの貢献を示すだけでなく、DLPのガバナンス権や将来の収益分配権も提供します。本質的に、各DLPは特定のデータ資産を集約するためのスマートコントラクト として機能します。

 Vanaの技術アーキテクチャには、以下の要素が含まれます。

  • 貢献証明(Proof of Contribution, POC)。
  • 名古屋コンセンサス(Nagoya Consensus)。
  • ユーザーによる自己管理データ。
  • 分散型アプリケーション層。

 これら技術に関する説明は、本稿では割愛します。Vanaでは以下の4つの方法でネットワークに参加できます。

a)探索者(Explorer)

 データの所有と管理からどのような利益が得られるかに興味はあるが、技術的な知識や時間が限られている方向け。Vanaの Telegram Miniアプリ を使用し、事前に採掘されたVanaポイントを獲得しながら、データの活用を始めることができます。

b) 建設者(Builder:データDAO作成者)

 開発者、起業家、またはプロジェクト創設者として、Vana上でデータDAOやアプリケーションを構築したい方に向いています。データDAOの作成には、Vanaが提供するガイドを慎重に確認する必要があります。

c)データ貢献者(Data Contributor)

 価値あるデータを所有し、それを分散型データ流動性プール(DLP)に提供することで報酬を得たい方に向いています。Aurora上で適切なDLPを見つけ、Vanaエコシステム内でトークン報酬やガバナンス権を獲得できます。

d)データ消費者(Data Consumer)

 高品質な分散型データセットにアクセスし、それを活用してAIモデルを構築したい方に向いています。Vanaのエコシステムを通じてデータセットを購入し、AIのトレーニングやデータ分析に活用することが可能です。(注記:現在、Vanaプロジェクトではトークンの発行は行われていません

https://www.masa.ai/

 MASA Networkは、ユーザーの個人データを活用した分散型ネットワークであり、データのトークン化と収益化を目指しています。

  • ユーザーは 自身のデータを提供することで、ネイティブトークン「$Masa」を報酬として獲得。
  • 開発者は このデータを活用してAIモデルの訓練やアプリケーション開発が可能。
  • データの提供プロセスは、ユーザーのプライバシーを最大限に保護する形で設計。

 MASA Networkは、データ主権と収益化の両立を目指す点で、Vanaと共通するコンセプトを持つプロジェクトです。

 AIによるフェイクコンテンツの拡散という課題に対処するため、ブロックチェーンのタイムスタンプ機能と改ざん耐性を活用する手法が注目されています。ブロックチェーン技術を活用することで、

  • 動画や音声などのコンテンツに改ざん不可能なタイムスタンプ記録を付与。
  • コンテンツの出所を透明化し、オリジナルデータと照合。

 もし偽造されたコンテンツが拡散されても、ブロックチェーン上のオリジナルデータと比較することで、その真偽を検証可能です。

 この技術は、

  • ニュースメディア
  • ソーシャルメディア
  • 公的記録管理

 といった分野で広く活用されることが期待されており、フェイク情報の拡散を抑制するための強力なツール となるでしょう。但し、現段階上記のようなユーティリティを含めたプロジェクトは見当たらず、調査の過程で、大手企業が発起した C2PA(Content Provenance and Authenticity Coalition, 内容の出所と真実性連盟) というアライアンスの存在が確認されました。

 C2PAの目的は、メディアソースの真正性を保証し、誤情報問題を解決するためのオープン技術標準を策定することです。これにより、出版者、クリエイター、消費者が、インターネット上のコンテンツの出所を検証しやすくなります。但し、C2PAはブロックチェーンをベースとしたプロジェクトではないため、今後の動向に注意が必要 です。

https://c2pa.org/

 C2PAは、Adobe、Arm、インテル、マイクロソフト、Truepic による共同プロジェクトであり、Adobeが主導する 「コンテンツ真正性イニシアチブ(Content Authenticity Initiative, CAI)」 と、BBCおよびマイクロソフトが主導する 「Project Origin」の統合により誕生しました。

  • CAI:デジタルメディアのコンテキストと履歴を提供するシステムに特化
  • Project Origin:デジタルニュースエコシステムにおける誤情報の問題解決を目指す。

 この標準が将来的にWeb3プロジェクトで活用される可能性があるか、またはWeb3領域で同様の取り組みが増加するかについては、今後の動向を注視する必要があります。

 AIモデルの訓練に必要な計算リソースは、現在、少数のテクノロジー大手企業に高度に集中 しています。しかし、ブロックチェーン技術を活用して分散型の計算リソース市場を構築することで、この独占状態を打破する可能性があります。

 このモデルでは、余剰の計算リソースを持つ個人や組織が、ブロックチェーンを通じてリソースを提供し、報酬を得ることが可能となります。これにより、

  • AI訓練コストの削減。
  • より多くの開発者がAIモデルの訓練や最適化に参加可能。

 といったメリットが生まれます。既に、NVIDIAのような企業はこの分散型計算市場の可能性を模索しており、将来的にはWeb3エコシステムの重要な構成要素となることが予想されます。この分野で今注目されているが、Hack VCがリード投資、OKX Ventures、Animoca Brandsなどが参加したIO.NETです。

https://io.net/

 IO.NETの理念は、世界中に大量のGPU計算能力が余っているという事実に基づいています。計算リソースの需要が急増する一方で、GPU供給の開発には長期的なサイクルが必要 であり、供給不足が深刻化しつつあります。こうした背景のもと、IO.NETは独立系データセンター、暗号資産マイナー、個人のGPUリソースを集約することで、供給の拡大を目指しています。

 2023年11月のローンチ以降、ネットワークは約19,000台のGPUを統合し、計算証明(Proof of Compute)テストを通った6,000台以上のCPUを確保 しました。また、IO.NETは他の分散型計算ネットワークであるRender NetworkやFilecoinと提携 し、そのうち 2,000台のGPUをIO.NETネットワークに統合しています。

 分散型物理インフラネットワーク(DePIN)プロジェクトとして、IO.NETのネイティブトークンであるIOは、供給者へのインセンティブ提供やネットワークの安全性維持において重要な役割を果たしています。IOエコシステムでは、すべての支払いが本質的にIOトークンを介して行われます。

  • ユーザーはUSDCやその他の対応トークンでリソースの支払いが可能。
  • GPUサプライヤーは最終的にIOトークンで決済を受け取るため、IOトークンへの需要が発生。

 また、IOトークンの保有者は、ステーキングを通じてネットワークの安全性を維持しながら報酬を獲得できます。

  • 各ノードには最大ステーキング上限が設定されており、公平性と効率性が確保されている。
  • これにより、ネットワークのセキュリティが強化され、長期的な持続可能性が確保される。

 他にも、 AethirATH、ArweaveAR、 JamboJ、HeliumHNT、AnkrANKR、DeepLink Protocal等々のプロジェクトが注目されています。

 現在のソーシャルネットワークは、中央集権型プラットフォームによって支配されており、ユーザーは自身のデータやソーシャルグラフをほとんど管理できない 状況にあります。しかし、ブロックチェーン技術を活用することで、ユーザーが自身のデータとアイデンティティを完全にコントロールできる分散型ソーシャルネットワークの構築が可能 です。

 更に、AIは分散型ソーシャルネットワークにおいて、カスタマイズされた推薦アルゴリズムを提供し、ユーザーが価値あるコンテンツを発見するのをサポートすることが可能です。従来のプラットフォームとは異なり、分散型ソーシャルネットワークでは、

  • ユーザーが信頼できるアルゴリズムを選択可能。
  • 市場競争を通じて、異なるアルゴリズム提供者を選択できる仕組みが導入可能。

 これにより、ユーザー主導型の新しいソーシャル体験が実現されます。この分野で今注目されているのが、a16z、Paradigmがリード投資、Coinbase Venturesなどが参加したFarcasterです。

https://www.farcaster.xyz/

 Farcasterは、ブロックチェーン技術を基盤とした分散型ソーシャルメディアプロトコルであり、相互運用性、ユーザーの自主性、プライバシー保護に重点を置いています。

  • 相互運用性:異なるアプリケーション間でのデータ共有を可能にする設計。
  • ユーザーの自主性:プラットフォームのルールではなく、ユーザーが自らのデータを管理。
  • プライバシー保護:データの暗号化やオンチェーン認証を活用。

 Farcasterのアプローチは、Web3における分散型ソーシャルメディアの未来を形作る重要なプロジェクトのひとつ であり、今後の展開に注目が集まっています。従来のソーシャルネットワークとは異なり、Farcasterは中央サーバーに依存せず、Optimismブロックチェーンの拡張ネットワーク上に構築されています。この構造により、開発者はスマートコントラクトの事前開発機能を活用して、多様な分散型ソーシャルメディアアプリを構築することが可能であり、同時に透明性、安全性、分散性を確保しています。

最後に:Web3時代における技術の融合

 これらのモデルは、データ、プライバシー、計算リソースに対する私たちの認識を根本から変える力を秘めています。現在、VANA、IO.NET、FarcasterなどのプロジェクトがトップVCの支援を受けながら、この技術的変革をリードしています。これから未来のビジネスエコシステムがどのように形作られていくのかが楽しみです。

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